2 襲撃され不法監禁つづく

目次
表と裏出口封鎖
鉄棒、丸太で突撃してくる
電気、電話も切断されて
暴徒かばう機動隊

 ◎表と裏出口封鎖

 翌三月一日、午後六時には玄関ホールに、紅衛兵らが集まりだした。 華僑総会幹部もきているようだ。脱走した「正統本部」の役員、会員、友好商社員、札付のトロッキスト暴カ集団、学園で騒いでいる日本人暴カ学生らも加わって、百数十人が集まって殺気だっている。そんな姿がトビラののぞき穴から見える。三好一ら「正統本部」役員の顔もある。

「ニセ日中が、華僑学生に暴力をふるった…」

と叫んでいる。黒白転倒の叫びだ。

 彼らは抗議集会を始めた。加害者が抗議大会とは、どういうことか、ぐうーと腹が立つ。 昨夜は、壁新聞を破った、といってウソをついて押しかけ、わが協会の事務局員に乱暴を働き、協会事務局員を監禁状態におきながら、なんと「暴方をふるってきた」という抗議集会である。

 やくざや暴カ団でも、こんな謀略的なデッチあげはしないだろうと私は、森下幸雄組織部長と話した。森下さんは民青同盟本部の役員が長い。協会が分裂したため、役員体制強化のために迎え入れた役員である。いろんな経験者だ。

 彼は、

「そおね、やっこさんたちには、普通の常識は通用しないよ」

と言う。

「事務所に連中がくるかもしれないから…」

と事務局員に、てきぱきと指示をしていた。

 専従の役員体制はほかに、名古屋から赴任してきた石川賢作さんがいる。

 理論家で、格調の高い文章を書く人だ。

 武井さんは、元陸軍航空技術少佐である。若い人たちにとっては、少佐も一等兵も大差はないらしいが、私の世代になると、凄く偉い人だ。

 和田理事長は病気がかんばしくないので、自宅療養が必要だ。それでもことがおこると飛んで来る。笠原千鶴会長は病気の治療をしながら、本部に激励に見えられる。

 私たちは、華僑学生の挑発に絶対に乗らないことを鉄則にしていた。

 二月十八日の襲撃は彼らにとっては、その点でアテの外れたものとなった。挑発にのらなかったからだ。だから今夜は大挙動員をして、ことを決しようとしているらしいのだ。

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 ◎鉄棒、丸太で突撃してくる

 彼らの興奮した集会が終わると、私たちの協会事務所の正面に向かって、丸太や鉄棒を手に手に、どっと突撃してきた――襲撃だ。入り口で様子をみていた事務局員が、

「きたぞー」

と叫んだ。

 異様な声を張りあげて殺到して来た暴徒たちは、まず鉄棒を使って、ドアの取っ手を外しにかかった。

 事務局内の私たちは彼らの侵入阻止のため、必死に文化関係資材の重い木箱や、机などを、入り口の内側に運んで積み上げ、カまかせに体ごと押えた。なんとか侵入を防げたらいいが…、鉄棒や丸太で、鉄製ドアを叩く音がすさまじい。鉄工所のようだ。正面から声が入ってくる。

「お前らはここにいる権利がないのだ…」

凄い換声だ。外から鍵をかけられたようだ。時を移さず裏側の入り口にも彼らの一隊が廻ってきた。紅衛兵だ。

「ニセ日中出て行けっ」

裏口も昨夜から、外側より封鎖されている。

 私たちは出入りの自由を完全に、暴徒に奪われた。こうなると侵入を防ぐには内側からのバリケードを、強化する以外にない。

 法律にもとづいて貸借関係にある事務室を、無法な第三者に、暴力で奪取されるなどという馬鹿なことがあるか、中国で通用しても日本では通用しないぞ、しかし彼らは多数の日本人をまじえて、形相がかわっている。

 波状的な製準の先頭に「正統本部」の三好一らがいた。

 協会から会館玄関に通じる廊下は、完全に彼らの占拠下におかれている。正面だけではない。裏円に廻った彼らは丸太棒、鉄の棒などで、鉄線入りの頑丈な窓ガラスを、たたき割り侵入を図って来た。事務局員はさらに、卓球台や机、椅子を内側に積み重ねて、侵入を阻止する。

 協会内の人は、昨夜から一睡もせず、食事もろくにできない。

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 ◎電気、電話も切断されて

 午後八時、取り囲んだ暴徒は、電灯線を切断した。

 室内は真っ暗だ、電話線が数本ズタズタにきられている。凶暴化がひどくなる。

 ストーブは使えない、正面入り口は完全に押えられ、裏口は朝まで棒で乱打される。

 事態を知った協会の会員、労組員、弁護士らが会館の周辺に続々と駆け付けて来て、協会へ入るために会館玄関に入ろぅとした。すると紅衛兵や彼らの動員部隊と、会館事務局が一体になって、玄関から人るのを暴力的に阻止して入れようとしない。

 私たちは、これを知って、

「私たちは昨夜から暴力によって危険にさらされ監禁状態だ、通行の自由を保障せよと会館事務局にたいし残された電話線を使って要求したが、事務局は取りあわない。このままでは生命が危ない。警察に「一一〇番」した。

「監禁なんか、されていない筈だ」

警察はそう言って、訴えを聞かない。なんと出動拒否だ。

 どこの指し圖だろうか警察は動かない。

 死人が出るとどうするのか。心配をして会館の外にいた弁護士と、協会役員が、所轄の富坂警察署にかけつけた。

「なんとか警察の責任で、監禁状態を解除をしてほしい。命があぶないんだ」

と息を切らしながら要請した。

 警察はなにをいっても、言を左右にして「うん」と言わなかったそうだ。

 午後十時ごろ、どうしたのか機動隊が現れた。

 ところが警官隊の隊長が、外にいた弁護士と協会役員に、こんな通告をした。

「会館が言うには、華僑側は、協会員が中から出るのはかまわない、と言っている。だから監禁ではない。これは民事事件だから警察がタッチできない」

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 ◎暴徒かばう機動隊

 そしてこともあろうに、中に閉じ込められている日中友好協会員の身を案じてやってきた会員や、支援の人たちにたいして、

「無届け集会として排除する」

と叫びだす。

「道交法違反だ」

「解散しないと逮捕する」

と叫びだした。警官隊のピケで、協会員らが救援のため会館内に入るのを、完全に阻止された。

 彼ら機動隊がやってきたのは、この目的のためであったのか。

 外側を機動隊に守られる形になった紅衛兵、華僑、「正統本部」員らは援軍がきたとばかりに、会館内で協会に対する攻撃を強めてきた。

 支援の仲間や友人たちは監禁されている私たちの身を案じて、凍えるような寒さの中、合唱曲の、「東京―北京」を歌って、私たちを励ましてくれた。

♪アジアの兄弟よ はらからよ
 アジアに光を捧げよう
 はげしい嵐に負けないで
 太陽の情熱を燃やそうよ
 美しい友情は
 東京―北京を結び
 美しいこころは
 世界をつなぐ
 さえぎる者なんであろうと
 しっかりと手をとりあおう
 友情のしるしは……

 私たちは部屋の中からそれを聞いた。涙を流す事務局員もいた。


 外から抗議の声が聞こえはじめた。

 私たちのために立っていてくれる人たちに対し機動隊がこともあろうに、実力排除を開始したのだ。

 大がかりな暴行、不法監禁と器物破損行為がおこなわれているのに、その暴徒たちに指一本ふれない警察は、心配して駆け付けた私たちの仲間や友人をゴボウ抜きで、一人ひとりを実力で追い払う。これは一体、法治国家の警察のやることか、身が慄うような怒りを覚えた。

 会館周辺で、機動隊と仲良くピケをはっていた紅衛兵ら、華僑学生たちのあいだから、

 「フレー、フレー、機動隊」

の歓声が聞こえる。

 機助隊が退去する。会館周辺は華僑と、日本の毛沢東一派によって完全に包囲され、会館内では私たちは破壊された事務所内での監禁状況がつづく。 私たちは空腹と寒さ、不眠と疲労で、もうへとへとだ。しかし気をゆるめてはならない。

 暴徒に監禁されているのだ。いつ侵入してくるかわからないから……。

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(橋爪利次著「体験的[日中友好]裏面史」第1章 東京でおこった文化大革命、日本機関紙出版センター、1996年)